【10月】楓橋夜泊
(『看図読古詩(修訂版)』, 金盾出版社, 1994年より)
【大意】
月は西に落ちて闇の中に烏の鳴く声が聞こえる。厳しい霜の気配は天いっぱいに満ち満ちてもう夜明けかと思われた。紅葉した岸の楓、点々とともる川のいさり火が、旅の愁いの浅い眠りの目にチラチラと映る。
折りも姑蘇の町はずれの寒山寺から、夜半を知らせる鐘の音が、わが乗る船にまで聞こえて、ああ、まだ夜中だったか、と知られた。
(石川忠久編『漢詩鑑賞事典』講談社学術文庫,2009年より)
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江南運河の街、蘇州の名刹寒山寺のすぐ前にかかる「楓橋」、あまりにも有名な張継のこの詩ですが、秋になるとやはりどうしても思い出してしまう一首です。
暗闇の中、鐘の音は勿論、水に映る紅葉のちらちらとした薄光が、淡い眠りの中にも柔らかく五感を刺激し、旅愁をつのらせている様子が伝わってきます。
秋の忘れえぬ名句ですね。